旧約聖書でも称えられたワイン?!レバノン最古のワイン圧搾機が発掘される

その名声はレバノンのぶどう酒のよう」と、旧約聖書においても称えられたように、古くからレバノンのワインはブランド的な人気があったと言われています。紀元前3000年頃にはフェニキア人によってレバノンのワイン各地に運ばれ、エジプトやギリシャでも愛飲されていたのだとか。 

フェネキア人とは、現在のレバノンを拠点として地中海の物流を支配していた民たちのことですが、「フェネキア人」という呼び名は民族の名前ではありません。フェネキア人の母体はカナン(地中海とヨルダン川・死海に挟まれた地域一帯)に居住していたカナン人。交易を目的として地中海からやってきたカナン人たちをギリシャ人が「フェネキア人」と呼んだのだそうフェネキア人は世界で最初の貿易商人ともいわれています。 

フェネキア」という言葉の由来については、確かなことはわかっていません。居住地に由来する呼び名である、または特産品であった赤紫の染料に由来した呼び名であるなど、いくつかの説があるようです。古代ローマとの戦いに敗れた際に史料が燃やされてしまったため、フェネキア人は今も謎の多い民です。 

聖書にも称えられるほどの評判だったレバノンワインですが、オスマン帝国の支配を受けるようになった16世紀には宗教行事以外の目的でワインを造ることが禁じられ、レバノンでのワイン生産は衰退してしまいます。しかし、19世紀、フランスの委任統治領となったレバノンには、フランスから新しい品種と製法がもたらされレバノンのワインはフランスの影響を強く受けたワインとなりました。 

しかしその後、1975年から発生したレバノン内戦の影響により、レバノンワインの生産は再び窮地に立たされます内戦が一応の収束を見せた1990年代以降は再び、良質なワインが生み出されるようになりました。 

そんな激動の歴史を持つレバノンワインですが、フェニキア人がレバノンでワインを醸造していたことを示す史料は、これまでほとんど発見されていませんでした 

2020年9月15Cambridge University Press(ケンブリッジ大学出版局)から発表された論文「Phoenician lime for Phoenician wine: Iron Age plaster from a wine press at Tell el-Burak, Lebanonフェニキアワイン用の石灰:レバノン、テル・エル・ブラクのワインプレスから出た鉄器時代の石膏」によるとテル・エル・ブラク遺跡レバノン最古のワイン圧搾機が発掘されたことがわかりました。非常に良い保存状態で見つかったこの圧搾機は元前8世紀後半に建設され紀元前6世紀まで使用されていたのだとか。 

現代のレバノンワインは味のバランスがよく、世界でも高い評価を得ているそうですが、旧約聖書で称えられた時代とは葡萄の品種も製法も異なるため、紀元前のワインとはおそらく全くった味わいなのではないでしょうか。 

古代レバノンワインについての貴重な遺跡が発掘されたとなると、今後の研究によっては旧約聖書時代のレバノンワインが復刻される可能性もあるのでは?と期待してしまいますね。 

レバノンは夏に雨がほとんど降らず、乾燥した気候では病害虫害も少ないため、葡萄を有機栽培で作ることが普通なのだとか糖度と酸はワインの質を決める重要なポイントですが、レバノンの葡萄は激しい気温差のおかげで、糖度と酸をしっかりと備えて育つという特色があります 

ワインに適した高い品質の葡萄が作られるレバノンの気候は、旧約聖書の時代から変わらないものなのでしょう。 

レバノンワインは普通に飲んでも美味しいワインではありますが、産地の歴史やフェネキア人の歴史に思いを馳せながら飲むと、また新たな味わいを感じられます。 

参考:
Phoenician lime for Phoenician wine: Iron Age plaster from a wine press at Tell el-Burak, Lebanon
ジュール・ゴベール-テュルパン,「ワインの世界地図」 PIE International, 2018
黒木 英充,「シリア・レバノンを知るための64章,」 明石書店, 2013
セルジュ・ホーシャル×本間千枝子,「ワインは人類への贈り物-レバノンワインと神話的世界」『遠近5号』山川出版社,2005