サウジアラビアのメッカにて行われる大巡礼、ハッジが8月に今年度の全工程を終了しました。
ハッジとは毎年決められた期間にイスラム教の巡礼者がマッカ州とその周辺へ集まり儀式を行なう、特別な巡礼を指します。過去には儀式の間に将棋倒しや火災による死者が出るなどの年もありましたが、今年は特段大きなトラブルもなく儀式を終えて巡礼者は帰途に着いたとのことです。

太陰暦であるヒジュラ暦(イスラム歴)は西暦などの太陽暦と同じく12の月で分けられていますが、1カ月の日数が太陰暦と太陽暦で異なるため、1年間で11日ほどずれていきます。イスラム教の祭礼はヒジュラ暦に規定された月日に行われるため、太陽暦を基準としている国がイスラム圏とお付き合いをする場合には、祭礼の日程を把握することは大切なことでもあります。例えば有名なラマダーンと呼ばれる断食月もイスラム教の祭礼でありますが、これは太陰暦の9月1日から。今年の太陽暦では5月16日に該当します。ハッジは太陰暦12月8日からで、今年の太陽暦に直すと8月19日~24日までの5日間となります。

イスラム教徒が一般的に行うべきとされる行為を五行(信仰告白、礼拝、断食、喜捨、大巡礼)と呼びます。この五行の中でも日常的に行なわれる他の4行為と異なり、大巡礼であるハッジは経済的・体力的に成し遂げられることが可能な教徒が、生涯に1度だけ行なうことを課せられた特別な行となります。

昔は聖地に辿り着くまで陸路しかなかったため、旅の日程だけで数カ月を要する巡礼者もいました。また道中で山賊に襲われたり事故に遭遇したりと今以上に過酷な巡礼旅だったようです。現在は航空機での旅も可能ですが、巡礼には専用飛行機が使われます。これは、聖地の境界に入るために「ミーカート」と呼ばれる入り口を通らなければならないためで、空路であってもこのミーカートの上空を通ります。聖地に入る前に男性の巡礼者は白い布で作られた巡礼服に着替え、聖地内では身分や階級・国籍などの一切を捨てて、全員が一巡礼者として5日間儀式を行ないます。

1400年以上続く儀礼であるハッジは、40キロ四方と非常に狭いエリアで行われます。また日程によって行われる儀式と場所が決まっているため、人口超過は常に頭を悩ませ続けている問題でもあります。サウジアラビアはハッジ用の査証に現在、収容限界の200万人までの発行制限をかけているものの、世界のイスラム教徒数からすると僅かであるため10年以上も査証の発行を待っている教徒もいます。
なるべく混乱を来たすことなく多くの巡礼を受け入れるために儀式周辺の建物を取り壊して儀礼のスペースを作るほか、前述の通り空路を用意したり巡礼ルートに電車を敷いたり同時通訳用のアプリを用意したりと、苦心しながらも様々な対策を取っています。

また今年からハッジの期間中にホテルへ泊まる金銭的余裕のない巡礼者に向けて、仮眠用のカプセルを日本から輸入して無料で利用できるサービスが開始されました。これはサウジアラビアの慈善団体がサービスの提供に向けて尽力していたもので、今年は20個前後のカプセルが用意されたとのことです。
増加する巡礼者に対応するため、伝統を守りながら現在の様々な事情に合わせていくのも、長い歴史を持つ儀礼に見られる特徴といえるかもしれません。